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= アジャイル開発者のためのNVC
//flushright{
懸田 剛(かけだ たけし) @kkd
//}
== 非暴力コミュニケーション(NVC)を知っていますか?
非暴力コミュニケーションを知っていますか?この言葉はピンとこなくても@<strong>{NVC}という言葉はもしかしたら聴いたことがあるかもしれません。
数年前にマイクロソフトのサティア・ナデラCEOが、幹部にNVCの書籍を勧めたという記事が話題になったこともあります。@<fn>{1}
実はそれよりはるか昔にXP白本@<fn>{2} (XPの第2版のこと、以下XPE2nd)の参考文献に、サティア・ナデラ氏が経営陣に配った書籍であるNVC本@<fn>{3}が取り上げられているのをご存知でしょうか?
XPE2ndは2003年に出版された書籍で、実は20年近く前からアジャイルとNVCはとても近い距離を保っていたのです。
筆者がNVCに気づいたのは2012年、ちょうどその頃に先のNVC本の訳書が日本で出版されたのをきかっけとして読み始めて興味を持ち、学ぶようになりました。
本稿では、NVCとは何か、そしてなぜNVCがアジャイル開発者にとって大事なのかについてご紹介したいと思います。
== 非暴力とはなにか
NVCとは非暴力(=Non-violent Communication)の略称です。非暴力について、NVC本の中で以下のように説明しています。
//quote{
心のなかの凶暴性を鎮め、他者を思いやろうとする自然な心地を表現するには、ガンジーが使った”非暴力”という言葉がぴったりだ。自分では「暴力的」ではないつもりで話していても、口にした言葉が、相手ばかりか自分自身をも傷つけたりくるしめたりするきっかけとなることもある。
//}
つまり、@<strong>{言葉によって、相手や自分自身をも傷つけない}、という意味で非暴力という言葉を使っています。
字面だけ捉えてしまうと「相手を傷つけない表現を使いましょう」という短絡的な解決策のようにも見えますが、NVCの非暴力はもっと深い視点から考えられています。
== NVCとは何か
NVC本には、「NVCとは何か」の説明が色々とありますので、いくつか抜粋してみます。
//quote{
@<strong>{人を思いやる}コミュニケーション
//}
//quote{
@<strong>{心の底から与えるように導く}コミュニケーションの方法
//}
//quote{
NVCが基盤としているのは、@<strong>{過酷な状況に置かれてもなお人間らしくあり続けるための言葉とコミュニケーションのスキル}である。
NVCがめざすのは、@<strong>{人と人は互いに関係を築けるものだという自覚を取り戻し、それを実践に移すためのお手伝い}をすることである。
//}
もう少し、具体的な点についても次のような記載もあります。
//quote{
具体的には、@<strong>{自分を表現}し、@<strong>{他人の言葉に耳を傾ける}方法を組み立て直す。
型どおりに@<strong>{反射的に反応するのではなく}、自分がいま何を観察しているのか、どう感じているのか、何を必要としているのかを把握したうえで、@<strong>{意識的な反応として言葉を発する}ようにする。
人に対する@<strong>{尊敬と共感}を保ちながら、@<strong>{自分自身を率直に明快に表現}する。
どんなやりとりにおいても、@<strong>{自分が、そして人が必要としていることに耳を傾ける}。
//}
これらの抜粋から見ると、NVCは次のような要素を実現するためのものだ、と理解できます。
* 人を思いやる
* 心の底から与える
* 人間らしくあるためのコミュニケーションスキル
* 人と人の相互関係を築く支援
* 自分の表現と他者への傾聴
* 反応的ではなく意識的な発話
* 尊敬と共感を保ちつつ自身の率直な表現
* 自分、人が必要としていることへの傾聴
著者のマーシャル・B・ローゼンバーグは、まとめの章で以下のように述べています。
//quote{
NVCはわたしたちに@<strong>{本来そなわっている力}──@<strong>{人を思いやる気持ち}を引き出すことで、自分自身と、そして自分以外の人々との交流を容易にする。@<strong>{自分自身を表現する方法、そして耳を傾ける方法}を見直すプロセスともいえる。
//}
NVCのコミュニケーションスキルは、全く新しい方法というよりは、@<strong>{本来、人が持っている力を取り戻す}という試みといえるでしょう。
== NVCの2つの問い
NVC本の後に翻訳された『「わかりあえない」を超える』@<fn>{4}にNVCの2つの問いが紹介されています。
* (1) わたしたちの@<strong>{内面}で何が息づいている・生き生きしているか?(What's alive in us?)
* (2) 人生をよりすばらしいものにするために@<strong>{何ができる}のか?(What can we do to make life more wonderful?)
2つ目の問いである「何ができるのか」について、様々な人が、人生をよりよくするために試行錯誤を繰り返してきている。アジャイル開発もその一つと捉えてもいいのではないでしょうか。
しかし、1つ目の問いである「内面で何が息づいている・生き生きしているか?」についてどれだけの人が意識的になっているでしょう?私たちは、外側の世界で何かやることばかりに目を奪われていて、@<strong>{内面にあるもの}については、あまりに無自覚ではないでしょうか。
NVCの2つの問いが示していることは、内面に目を向けて@<strong>{あるもの}を読み解かないと、いくら外側で何をしようとも、本当に望む所に行き着かないのではないか?ということです。
== プロセスとしてのNVC
NVCは、明確なコミュニケーションプロセスが定義されています。まずはこのコミュニケーションプロセスを紹介してみましょう
NVCでは、コミュニケーションを4つのステップで行います。観察→感情→ニーズ→リクエストの4つのステップを略称をとって@<strong>{OFNR}とも呼びます。
=== O:観察
OとはObservation(観察)のことで、@<strong>{事実をありのまま解釈せずに認知する}ことです。
「事実と解釈を切り分ける」ということがエンジニアとして重要な視点だということは、多くの方は既にご存知だと思います。
例えば、誰かの行動を観察した時に「あの人はいつもTwitterばかりしている」と表現したとします。この表現は、実は解釈まみれです。
「いつも」という表現は解釈が入っているので、事実ベースにすると「今日は3時間費やしていた」などとなります。
「Twitterばかり」という表現も解釈が入っているので、事実ベースにすると「作業時間の30%をTwitterに費やしていた」などとなります。
いずれにせよ、私たちは解釈まみれで物事を描写するため、常に@<strong>{事実と解釈を切り分ける}練習が必要となります。
=== F:感情
FとはFeeling(感情)のことです。現代社会は、感情を思考と比べて低く扱っています。特に多くの場合は、負の感情を出してはいけない、抑えるべき、コントロールすべき、という捉え方をしています。
NVCは、自分や相手の感情を大切に扱います。なぜなら、感情を次に紹介する@<strong>{ニーズが満たされている・満たされていないことを伝えようとするメッセージ}であると捉えているからです。
例えば、誰かへLINEでメッセージを送った時に、相手が既読はしたが返事が返ってこない時を考えてみましょう。事実としては、「相手はメッセージを開いた(既読マークがついた)」なのに、そこに様々な解釈が入って解釈まみれになることがあります。
//quote{
事実:「相手はメッセージを開いた」
解釈1:「相手はメッセージを既読スルーした」
解釈2:「相手は自分のことを無視している、避けている」
解釈3:「相手はメッセージを読んで不快になったかもしれない」
//}
ちなみに、この解釈が止まらずに事実から推論(解釈)を多段に行っていく状態を@<strong>{推論のはしごを登る}と呼びます。
この時、最初の既読マークがついたという事実から、その後の「既読スルーされた」「相手に無視された、避けられた」という解釈の後に出てくる感情のことを@<strong>{エセ感情}と呼びます。
このような時は、推論のはしごをゆっくり降りながら、エセ感情をじっくり味わって自分の内側に何があるのかを感じることが重要です。
私たちは、不快な感情は抑えるべきものであり、不快感情を表現するという教育を受けてきませんでした。そのため、不快感情の表現に関するボキャブラリーが貧困ですし、そもそも表現することもためらいを感じてしまいます。
言葉で感情を表現できないため、身体を使って感情を無意識に表現しようとしたり、適切な言葉をしらないため、相手にわからないような遠回しな表現を無意識にしたりします。
NVCでは自分の感情を積極的に表現しようとします。感情表現のボキャブラリーを補完するため、NVCの感情・ニーズリスト@<fn>{5}、共感トランプ@<fn>{6}などを使って、自分の感情を言葉として表現する必要があります。
そして、不快感情をなかったことにするのでなく、@<strong>{あるものとして感じる}ことで、次のステップである@<strong>{ニーズ}に向かうことができます。
=== N:ニーズ
NとはNeeds(ニーズ)のことです。日本語だと「必要としていること」となりますが、状況によっては満たしたいこと、大事にしたいこと、望み、願いという言葉の方がしっくりくるかもしれません。
感情を味わうことで、自分の内側にあるニーズに繋がることができます。NVCでは、感情とはニーズが満たされている、あるいは、満たされていないことを伝えてくれるメッセージと捉えています。
私たちが感情に反応的に行動していると、不快な感情を避けようとするため、感情の奥にあるニーズにつながることができません。感情を抑えてコントロールしようとしても、感情の奥にあるニーズには繋がれません。感情を抑えることは、メッセージとしての感情の役割を無視していることになるからです。
「既読スルーされた」という解釈で不安にかられた人はどのようなニーズが満たされなかったのでしょうか?「受けいれられること」というニーズが満たされなかったのでしょうか?それとも「相手への貢献」というニーズが満たされなかったのでしょうか?
このことは本人が感じることでしか明らかになりません。
NVCでは、ニーズはこちらが感じて気づいた言葉を相手に投げかけて確認してもらうか、相手が感情を味わうことでニーズの感覚にしっくり来る言葉を探してもらう、などの相互交流を通じて発見します。
不思議なことに、当事者がまったく気づかないニーズを、他者が共感(エンパシー)することで感じて発見することも可能です。大事なのは「@<strong>{本人がしっくりくる}」ということであり、他者が決めつけたりするものではありません。相手に必ず確認する必要があります。
いずれにせよ、ニーズはその人が感情を味わって初めて気づくものなので、思考で考えてでてくるというものではありません。@<strong>{感じること}がとても重要なのです。
感情と同じくニーズはボキャブラリーがないとうまく言葉にできません。そのため前述したようにニーズリスト、共感トランプなどを使って表現するのがおすすめです。NVC本、わかりあえない本などの巻末にも感情・ニーズリストが添付されていますので、そちらを使っても良いでしょう。
=== R:リクエスト
RとはRequest(リクエスト)のことです。ニーズが明らかになれば、その満たされていないニーズを満たすための手段を他者に要求することができます。
ニーズを満たす手段のことを@<strong>{ストラテジー}(戦略)と呼びます。リクエストはそのストラテジーを相手に提案することでもあります。
ここで大事なのは、@<strong>{ニーズを満たすためのストラテジーは1つではない}ということです。ある手段についての要求が受け取られなくても、別の手段なら受け取られる可能性もでてきます。
またリクエストは強要ではありません。これはあくまでもお願いで、相手は拒否する権利があります。相手には相手のニーズを満たそうとするリクエストがあるからです。
大事なのは@<strong>{お互いのニーズをわかっている}という点です。互いのニーズがわかっていれば、両者を満たすための手段を考えることができます。
多くの場合、私たちはニーズを明らかにしないで、手段であるリクエストにこだわり、それが受け入れられないことでイラついたり、揉めたり、対立しています。@<strong>{手段に囚われている}ということです。
お互いのニーズがわかってさえいれば、お互いにニーズを満たし合うストラテジーを検討することができます。もし互いのニーズが明らかでないなら、互いに手段にこだわり対立が生まれます。
何より、私たちは自分のニーズが相手に理解されていることだけでも安心することができます。そのためにも互いのニーズを明らかにしていくということが非常に大切です。
== なぜNVCが重要なのか
では、なぜこのNVCが重要なのかについて少し触れておきたいと思います。
NVCは、人の内側に目を向けて、そこにある存在(=ニーズ)に光を当てようとします。
そのために、感情、特に不快感情の存在をあってはならないものではなく、ニーズに繋がるメッセージと捉えようとします。反応的に不快を快にしようと駆り立てられるのでなく、不快の裏に存在するニーズに目を向けるのです。
私たちの一般的な社会通念では、不快感情はあってはならない存在、避けるべきものして捉えています。そうやって不快をあってはならないものとすることで、不快を回避できるというメリットと引き換えに、私たちの内面にあるニーズを無視するというデメリットがあります。
不快感情は何かが満たされていないというメッセージです。それを意識的に捉えて、満たそうとする行為を行わなければ、いつまでも満たされないことを知らせるために不快感情が湧き上がってくるのです。
たとえば怒りが湧き上がってくる時、何が満たされていないのでしょうか?それに気が付かなければ、私たちは怒りのはけ口を見つけて発散するか、怒りをあってはならないものとして抑えるしかできません。前者は一過性にすぎず、後者は抑える事で怒りのエネルギーが体内に滞って身体的な影響が出てきます。怒りの源泉に目を向けてあげなければなりません。
日常生活、仕事、すべてにおいて不快感情の奥にあるニーズを読み取り、それを満たそうとするという自覚的姿勢が、反応行動に終始するのではない@<strong>{意識的なコミュニケーション}を実現する鍵となります。
== まずは自分とつながる
NVCを知ると、先のOFNRのコミュニケーションプロセスがわかりやすく定義されているため、これを日常や仕事の中のコミュニケーションとして実践しようとします。
もちろんそれは大事なことなのですが、依然として反応的になってしまうことも多々あります。OFNRの型通りにコミュニケーションを行おうとしても、逆に相手とのやりとりが不自然になってしまうこともあります。
NVCを他者とのコミュニケーション技法と捉えていると、他者との関係性を変えるためにNVCを用いようとしますが、NVCはまずは@<strong>{自分との関係性を変えていく}ことが必要です。
自分との関係性を変えていくということは、@<strong>{自分の感情に責任をもつ}ということです。つまり、相手の言動は、自分の感情を刺激することはあっても、原因にはならないということです。感情は、他者の言動に対して、自分の受け止め方の結果や、ニーズが満たされている・満たされていない、という状況によって引き起こされると考えます。
こう考えると、感情とは、@<strong>{相手の言動に反応する自分自身の問題}であると自覚することができます。
//quote{
「私は〜と感じる。なぜなら私が〜だからだ」
//}
というフォーマットで感情を感じてみると、自分が大事にしている・必要としているニーズに目を向けるようになり、感情の奥にある自分のニーズに自覚的になります。
そして、自分のニーズに自覚的になると、他者との関係性も徐々に変わっていきます。なぜなら、自分が大事にしたいニーズがあるように、相手にも同じ様に大事にしたいニーズがあるということが、頭ではなく身体でわかるからです。そうすることで、自分のニーズを満たしつつ、相手のニーズも満たそうと試みることができます。
もし、あなたが他者とのコミュニケーションに難しさを感じているとするなら、あなた自身が@<strong>{自分とうまく繋がれていない}のかもしれません。
== 自己共感ファースト
そこで、まず最初にオススメするのは、自分への共感つまり@<strong>{自己共感}からはじめることです。
自分とつながるためには、それまで無意識に自動的に行なってきた反応的行動、解釈まみれの認知を、一つ一つ立ち止まって丁寧にみていかなければなりません。
自分の内側で、特に不快感情が湧いてきた時に、OFNRの順番で自分の内側を見てみましょう。自分の感情に振り回され、反応的行動を取っているままでは、自分の必要としていることを相手に伝えることはできません。
そうはいっても、最初はその場で感情に迅速に対応するのは大変です。つい反応的行動をとってしまっても自分を責めずに、後からでもいいので、@<strong>{感情が湧き上がってきた瞬間を感じ直して}その感情を味わってみましょう。そして、その奥にあるニーズを探ってみましょう。
もしも、日常の場面でイライラしてしまったことがあったなら、イライラした自分を嫌悪したり、ダメだと否定するのでなく、その時のイライラを感じ直していてください。
「あの時、イライラしてたなぁ。自分の内側に何があったのだろう?」と感じ直してみると、その時は気づけなかったニーズに繋がることができます。前述したニーズリストや共感トランプなどを見ながら行ってみるとよいでしょう。
自己共感から始めることで、自分の反応的になっていた行動をひとつひとつ解きほぐし、@<strong>{自分が大切にしたいニーズに自覚的になる}ことができます。
感情を抑え込んだり、なかったことにしないで、@<strong>{あるがまま感じて}ください。感情が湧き上がる時、身体反応があります。お腹、胸、頭などの部位、熱くなる、冷えるなどの温度感覚、身体が硬直する、動き回るなどの動き、身体反応の変化の移動、これらを感じてください。そして、その感情、身体感覚で感じた先にあるニーズを感じてください。
そうやって、まず自分と繋がっていくことで、感情が何を伝えようとしているのかを読み解き、感情の意味を知り、自分の大事にすることに気づき、それを満たすための手段につなげてください。これを、仕事だけなく、生活の中で繰り返していきます。
簡単にできることではありませんが、機会は至るところにあります。少しづつ取り組んでみてはいかがでしょうか。
== NVCとユーザーストーリー
最後に、少しだけアジャイル的な話をします。
筆者がNVCを知った時、ユーザーストーリーと親和性が高いと直観しました。利用者の振る舞いをOFNRの観点で捉えたり、対話の中でOFNRの切り口で相手のニーズとつながりリクエストを対話の中で見出していくプロセスは、そのままNVCと繋がります。
ユーザーストーリーのフォーマットとして広く使われているConnextraフォーマット@<fn>{7}は、
* As a 〜 (@<strong>{誰が} 何かを実現したいのか)
* I want to 〜 (彼らが @<strong>{何を} 実現したいのか)
* So that 〜 (彼らが @<strong>{なぜ} それを実現したいのか)
という表現になっています。
これを、OFNRの観点で見てみると、その役割の人物を観察(O)し、その人が感じている感情(F)やその奥にあるニーズ(N)につながって、そのニーズを満たすことのできるリクエスト(R) を見出し実現する解決策があるとユーザーストーリーとなります。
Connextraフォーマットに対応させると、I want to は@<strong>{リクエスト}であり、So that〜は、その根源となる@<strong>{ニーズ}や@<strong>{感情}が含まれていると捉えることができます。
OFNRのニーズの説明にもあるように、ニーズは一方的に決めることはできませんし、かと言って相手が明確に理解しているわけでもありません。@<strong>{対話の中で明らかにしていく}プロセスが重要となるという点で、非常に似通っていると考えることができます。
NVC的に言うならば、@<strong>{利用者のニーズとつながっている}ユーザーストーリーは、実現する価値があると言えるでしょう。
もちろん、ユーザーストーリーは対話だけで完結するわけではなく、実際に実現してみることで初めて気づくこともあります。アジャイル開発者としては、常に何を作るかよりも、@<strong>{相手のどんなニーズを満たそうとしているのか}について、意識的である必要があります。
同じようなことを、アジャイルの界隈では@<strong>{価値}と表現します。「ユーザーストーリーにどんな価値があるか?」と考えるのも重要ですが、価値という代わりに「ユーザーストーリーはどんなニーズを満たそうとしているのか?」という観点で見直してみると、新しい発見があるかもしれません。
ユーザーストーリーも、コミュニケーションと同じように、利用者への思いやり、心から与えようとする姿勢が重要だと気づかされました。
== 人の内面に息づいているもの
冒頭のNVCの2つの問いのうちの1番は、あなたや他者の内面に息づいているもの(=感情、必要としていること、大事にしていること)を読み解こうとすることです。
何かを伝える、受け取る前に、@<strong>{自分たちの内面に何があるか}を読み解くことができていないと、その奥にあるニーズを満たすことができません。
これは、アジャイル開発であっても、日常生活であっても同じです。それぞれの人が内面に息づいているものがあり、相互に満たし合うことで私たちの社会は繋がっています。
チームメンバー、上司、顧客、そして何よりあなた自身の内面にあるものに目を向けることで、よりよい関係性、よりよい製品へと変えていくきっかけにしてみてください。
NVCを学ぶための様々なトレーニング、勉強会が開催されています。興味のある方はNVC Japanのサイト@<fn>{8}をご覧ください。
//embed{
\begin{minipage}{.1\linewidth}
\centering
\includegraphics[width=.75\linewidth]{images/kkd.jpg}
\end{minipage}
\begin{minipage}{.89\linewidth}
懸田 剛(かけだ たけし) @kkd https://twitter.com/kkd\\
Facebook: takeshi.kakeda / https://note.com/kkd
\end{minipage}
\hspace{1ex}
//}
アジャイルソフトウェア開発が日本に紹介された2000年から、アジャイルソフトウェア開発の実践、普及、コミュニティ運営、現場支援に携わる。
「今ココ」からのチームのアジリティ向上への構造保存変換を好むアレグザンダー厨。
XPJUG創設メンバー、Agile459(四国のアジャイルコミュニティ)発起人、Agile Conference 2008登壇、国内カンファレンスの登壇多数。「ふりかえり」のひらがな表記発案者、LT銅鑼考案者の一人、腰リール開発者。
ソフトウェア開発、建築、まちづくり、農的生活、生態系保全、ランニング、健康生成、内的世界変容の経験から導くジャンルを貫く@<strong>{全体性の探求}がライフテーマ。
==== SNS、Webサイト
Twitter: @<href>{https://twitter.com/kkd,https://twitter.com/kkd}
note: @<href>{https://note.com/kkd, https://note.com/kkd}
Facebook: @<href>{https://www.facebook.com/takeshi.kakeda, https://www.facebook.com/takeshi.kakeda}
Zensow: @<href>{https://zensow.jp, https://zensow.jp}
個人サイト: @<href>{https://tkskkd.com, https://tkskkd.com}
いろいろ: @<href>{https://scrapbox.io/tkskkd-world/, https://scrapbox.io/tkskkd-world/}
==== 著書
『eXtreme Programmingテスト技法』(翔泳社)共著者
『アジャイルソフトウェア開発 スクラム』(ピアソンエデュケーション)共訳者
『「アジャイル式」健康カイゼンガイド』(翔泳社)共著者
//footnote[1][abadi, mark. 殺伐とした企業カルチャーを変えるために、マイクロソフトCEOが幹部に勧めた1冊 | Business Insider Japan. @<href>{https://www.businessinsider.jp/post-176954, https://www.businessinsider.jp/post-176954} (2018).]
//footnote[2][KentBeck & CynthiaAndres. エクストリームプログラミング. (オーム社, 2015).]
//footnote[3][マーシャル・B・ローゼンバーグ & 安納献. @<em>{NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 新版}. (日本経済新聞出版, 2018).]
//footnote[4][マーシャル・B・ローゼンバーグ. @<em>{「わかりあえない」を越える――目の前のつながりから、共に未来をつくるコミュニケーション・NVC}. (海士の風, 2021).]
//footnote[5][感情とニーズ. @<href>{http://nvc-japan.net/material/feelings_needs_list/, http://nvc-japan.net/material/feelings_needs_list/} (2016).]
//footnote[6][共感トランプ (第二版). @<href>{http://nvc-japan.net/material/empathy_cards/, http://nvc-japan.net/material/empathy_cards/} (2019).]
//footnote[7][User Story Template for Agile | Agile Alliance. @<href>{https://www.agilealliance.org/glossary/user-story-template/, https://www.agilealliance.org/glossary/user-story-template/}.]
//footnote[8][NVC Japan. @<href>{http://nvc-japan.net/, http://nvc-japan.net/}.]